すべては保育所保育指針に沿った保育のため(わかたけかなえ保育園・山本園長)

2022年6月24日

今回は、わかたけかなえ保育園の山本園長先生です。
わかたけかなえ保育園は手厚い職員配置を可能にしていることでも知られています。なぜこのような配置が可能なのでしょうか?保育園の取り組みについて色々伺ってみました。

【わかたけかなえ保育園の概要】
東京都板橋区にある、定員70名(0歳児~5歳児)の認可保育園。
「保育は人」をキーワードに、人的な保育環境の整備・充実を運営の基本方針としている。
“保育=子どもたちが生活する環境を整えること”とし、中でも重要なものは《人的環境》だと考え、70名の定員に対して120名定員相当の職員数を確保している。
また、職員の定着率(過去3年間で約96%)が非常に高いというところも特徴の一つ。知識・技術の積み重ね、意識の共有化など保育の質の向上のために、定着率のレベルを保っている。

このインタビューって?
保育士が安心して転職できることを目指す”このゆび保育”が、素敵な保育園におうかがいし、経営者や園長先生にじっくりインタビューします。
取材担当は、このゆび保育の"まい"です。保育士として13年(海外の保育園でも働いてました!!)働き、保育の世界をもっと広く知りたいと思っています!

社会福祉法人わかたけ会  わかたけかなえ保育園

職員配置が手厚い理由とは?


このゆび保育/まい

わかたけかなえ保育園の定員は70名ですが、120名ほどに対しての職員数と手厚い職員配置になっています。なぜこのような手厚い職員配置になっているのでしょうか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

この保育園で保育所保育指針にあるような保育を実現するには、予算との兼ね合いも含め120名相当の職員が必要だと思ったからです。

他園で園長に就任したとき、どうやって職員をまとめると良いかと悩んでいました。言語化されていなかった運営理念を再構築することになった時、ちょうど保育所保育指針が告示化され、ここにすべて書いてあると思いました。これまで参考書でしかなかった指針が、法的な効力を持ったことで、これを活かすほかないと思ったことがきっかけです。保育所保育指針という方向性が示されたことで、あとはそれを実現していくためにどうすればよいかを考えていきました。

指針を読んでいくと、相当難しいことが書いてあります。それを実現していくためには、いわゆる最低基準では無理だと思いました。最低基準はあくまで最低の基準であり、その人数で十分とは書かれていないですよね。


このゆび保育/まい

“指針を実現するため”というところからスタートしているのですね。
職員が増えるほど給与は少なくなるのではと思うのですが、どうやって確保しているのでしょうか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

開設時の定員設定をはじめ、どのような補助金も最大でとれるようにしています。実際、23区だからこその補助金があるのはありがたいです。一方で、どんな補助金があるのか、それを知らない経営者もいると思います。


このゆび保育/まい

そのような工夫が、給与にも現れているのですね。


わかたけかなえ保育園/山本園長

指針に沿った保育を実現するためにできることはしていく。その意識の違いだと思います。保育士が現場で指針に沿った保育をしていくために、環境を作っていくのは経営者の役割だと思います。


人手があれば 業務負担は少なくなる?


このゆび保育/まい

手厚い職員配置では、業務負担は少なくなるのでしょうか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

一概には言えないです。そもそも負担軽減のために人を入れているわけではなく、あくまで”指針に沿った保育を実現するため”なので、目的が違います。必要な業務を、大変だから、時間がないから、と減らすという考えはないです。


このゆび保育/まい

え!そうなんですか!例えば具体的にどういうことですか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

例えば連絡帳は、3歳以上児になると、使用しなくなる園が少なくはないと思います。
ですが、連絡帳の目的というのを考えてみると、日々の子どもの様子を伝えるツールです。

「みんなで○○で遊びました」では、その子の様子は伝わりません。また「子どもに聞いてください」では子どもの視点でしか伝わらず、一人ひとりの子どもの成長や、保育士の意図などは伝えられません。

日々の送迎時に口頭で話せればよいですが、お迎えが重なるなど、一人ひとりと時間をかけて話すことは現実的に難しいです。そういった理由で当園では、入園から卒園まで連絡帳を毎日個別に書いています。そのために人員を配置しているのです。


このゆび保育/まい

書く時間がないから連絡帳を減らしていく、子どもから聞くことで家庭でのやりとりが増えるようあえて減らしていく、といった考えを多く聞いてきたので、そもそもの目的の違いに、とても驚きました。


わかたけかなえ保育園/山本園長

よく人がいるからできるんでしょ、など言われますが、その逆で、できるようにするために人がいます。


このゆび保育/まい

現場でもしっかりと指針に沿った保育ができているのですね。そのために、どのようなことを行っているのでしょうか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

毎月園内研修があり、そのテーマの一つに指針の理解を深める内容を入れています。普段の保育がずれていないかなど、クラスの中で話し合ったり、違和感があればリーダー層を交えて軌道修正しています。


このゆび保育/まい

日々の保育の中にしっかりと指針があるのですね。しかしながら、他園では、園長や主任などから、なかなか指針の理解を得られないことも多い印象です。


わかたけかなえ保育園/山本園長

指針の告示化は2008年で、それ以降に養成校で指針を学んだのは35歳くらいまで。それより上の世代は、指針は参考書という理解で、まだまだ浸透するには時間がかかると思います。園長世代にとって、指針が日常的ではなかったがゆえに重視されにくいことがあるのではと思います。


離職率の低さ=人間関係の良さ?

わかたけかなえ保育園の玄関先。ドア左に素敵な看板があります。


このゆび保育/まい

ホームページの離職率のデータを拝見しましたが、離職率がとても低いと思いました。人間関係も円滑なのでしょうか。何か意識していることはありますか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

悪くはないと思いますが、特に何か意識しているわけではないです。むしろ多少の職員同士のぶつかり合いは大事だと思っています。実際に、開園後4、5年目には、それなりの数の離職者もいましたが想定内でした。

園を立ち上げて色々な人が集まってくるわけですから、そこはあえて様子をみていたという感じです。あくまで同僚なので、みんな仲良くでなくても苦手意識や好き嫌いがあってよいと思います。だた、人間関係を苦にした離職や業務遂行上の支障が出るならば、管理者として手を打たなければいけないと思います。


このゆび保育/まい

多くの保育者がこの人間関係には悩むことが多いので、その点意外に思う人も多いかもしれません。あくまで同僚という立場で、意思疎通を図ることが大事なんですね。どの先生方もそこを理解しているからこそ成り立っているのかも知れません。
それができるためには、一人ひとりの保育者の質も欠かせないと思いますが、採用では何を見極めているのでしょうか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

スキルよりも、理念や指針を理解しているかを重視しています。
スキルアップは、マネジメント側の課題だと思います。それよりも”自己主張ではなく、組織の一員ということを自覚して、他の職員とともに理念や目標を実現していけるか”があることが必須だと考えています。
また、面接よりも見学時の質問、応答の仕方などの様子でその人となりが出てくるので、その様子を見ていますね。

 クラスリーダーのいない園の組織体制とは?


このゆび保育/まい

これまでのお話から、採用時の見極めや、一人ひとりをしっかり育てていこう、というマネジメントに力を入れている印象です。組織作りはどのようにしていったのでしょうか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

職員が落ち着いてからの組織作りでは、役職を設ける必要があると考えていましたが、キャリアアップの財源がなく困っていたところ、処遇改善等加算Ⅱができ、キャリアパスや組織づくりができました。


このゆび保育/まい

良いタイミングでしたね!


わかたけかなえ保育園/山本園長

運がよかったんです。


このゆび保育/まい

役職について、もう少し具体的に教えて下さい。


わかたけかなえ保育園/山本園長

いわゆる主任や、クラスリーダーという役職は立てていないんですよ。


このゆび保育/まい

そうなのですね!なぜですか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

クラスリーダーをたてると、クラスの意向なのかクラスリーダーの意向なのか分からなくなると思うからです。一方で、職場内のコミュニケーションはしっかりとりたいので、コーディネーターという職員がいます。


このゆび保育/まい

コーディネーターとはどんな役割ですか? あえて役職とは別にしているのはなぜですか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

連絡調整役です。各クラス、各部署の情報や課題などを互いに伝え合うことが役割です。何かを決めるための役職者と分けることで「密室での議論や意思決定」を防ぐことにも繋がっています。

風通しをよくするための取り組みとは?


このゆび保育/まい

最後にお伺いしたいのは、これだけのことを実行しようとすると、職員間のコミュニケーションがより難しくなる気がするのですが、会議などはどうしているのですか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

職員会議の他に、各クラス会議があります。コーディネーター会議で情報や課題を整理し、その内容をクラス会議で確認したり検討したりします。そして各クラスで確認、検討されたものを、職員会議で周知したり共有したりするようにしています。


このゆび保育/まい

なるほど。すり合わせの時間が確保されているのですね。他クラスと情報共有できる環境は、とてもいいですね。


わかたけかなえ保育園/山本園長

他にはフリー保育士を置いていないことも特徴です。担任が揃わない時は、必然的に他クラスの担任が入ります。その時はそのクラスの担当者の一員になるのですから、「なにすればよいですか?」と受け身にならないように、ある程度各クラスの保育や、計画などを把握しなくてはなりません。

非常に難しい保育手法であるとは思いますが、クラス担任による偏りをなくしたり、こどもの成長の過程を園全体で追ったりする為には効果的であると思っています。

とある保護者から「担任の先生って誰でしたっけ?」と言われた時には、成功だな、と思いました(笑)


このゆび保育/まい

すごいですね!情報共有だけでなく、実際にクラスに入ることで分かることもあると思います。日々の積み重ねですね。

インタビューを終えて

〜インタビューを終えて〜
取材前は、基準以上の職員配置、その上給与も安定、さらに離職率も低く、なぜそんなことが可能なのか!?という疑問と、きっと業務の負担は少ないんだろうなと思っていました。

しかし「保育所保育指針に沿った保育をするため」という、その考えの違いを思い知らされました。取材中、何度も「指針には…」という言葉があり、一貫して『保育所保育指針』を軸においていることがわかりました。

また、人がいるからこそあえて難しいことを行っていることにも驚きました。保育士が指針に沿った保育が行えているのも、しっかりとしたマネジメントがあるからこそなのだと思います。「だって指針に書いてあるから~」とさらっと言える園長は中々いないのではないでしょうか!

転職活動をしている保育士さんは、面接時に保育所保育指針についてどう保育に取り入れているのか、風通しのよい環境作りになっているかどうか?など確認してみるとよいかもしれません!

アフタートーク


このゆび保育/まい

HPにあらゆる情報を載せていたり、TwitterなどのSNSなど色々な所で発信されていますが、相当な労力ではないですか?どういう思いでやっていらっしゃるのですか?


わかたけかなえ保育園/山本園長

わかたけかなえ保育園の理念に「保育制度の発展、保育士の専門性の向上のために尽力する」と書いてあるから(笑)


このゆび保育/まい

「もう感動です!」

わかたけかなえ保育園さんでは、転職に関わらず随時園見学を受け入れているそうです!