【25年度の情報あり】保育士の借り上げ社宅制度が、終了するって本当?

2022年6月24日

保育業界ならではの制度である保育士宿舎借り上げ社宅制度は、2020年度に終了するという噂が広がりました。その背景について、借り上げ社宅制度の設立経緯から解説しています。

解説の前に、まずは最新情報として、2025年度の借り上げ社宅制度について記載しています。

【最新情報】2025年度の借り上げ社宅制度について

2025年度の借り上げ社宅制度は、例年通り、継続予定となっています。 

超速報!

2025年度の借り上げ社宅制度について「1人1回ルール」が創設されました。そのことについて、全国に先駆けて、詳細資料を公表した横浜市の資料をもとに解説コラムを公開しています。

借り上げ社宅制度を含めた保育に関する制度は、保育関係予算概算要求として、前年度の1-2月頃に公開されます。この要求は、こども家庭庁が、日本政府に対して「保育園の運営のために、このような予算が必要なので、財源を配分してください。」とお願いするものです。この要求は採択される場合が多いです。

借り上げ社宅制度に関する要求について「令和7年度保育関係予算概算要求の概要」より、以下に抜粋をしました。

令和7年度保育関係予算概算要求の概要のP13より、
このゆび保育が抜粋し作成

ただし、1つ変更点があり、対象者の「≪見直し≫対象期間の段階的な見直し(6年→5年)を行う。」という部分です。

これは、25年度から借り上げ社宅制度を使う場合、入社5年目までの保育士(21年度入社)であることが条件になります。実はこの年数については、毎年1年ずつ減っています。この年数の減少が「借り上げ社宅制度が終わるかも!?」という噂のもとになっています。

現在のペースで、対象者の条件変更が進むと、2030年度には終了する見通しとなります。現時点で2030年度以降については、2030年の1-2月頃に公開される概算要求で判明するのではないかと考えております。

さて、この借り上げ社宅制度について、そもそもどのような経緯で設立されたのか、この分野の第一人者であり現役保育士の“こばやしだいすけ”さんにお話を伺いました。

どうして東京都の保育士借り上げ社宅制度が終了になるのか

もともとこの保育士の宿舎借り上げ支援事業(以下:保育士借り上げ社宅)を東京都で実施するにあたり「5年間の時限措置」という扱いで始めました。

東京都では世田谷区が東京の自治体として2015年にこの保育士借り上げ社宅制度を導入しましたので、当初はこの世田谷区が2020年度にこの保育士借り上げ社宅制度を継続するかどうかが他の自治体や保育事業者たちが注目をしていたのです。

 

借り上げ社宅制度存続のポイントは“予算面”ではなく“費用対効果だった”

実は保育士の借り上げ社宅制度についての存続は当初、“予算面“よりも実際にその効果があるのかがポイントと言われていました。そもそもこの借り上げ社宅制度は保育士の処遇改善が目的ではなく、保育士が余剰になっていて正社員としてなかなか就職出来ない地域から、国や自治体の予算を使って保育士を上京させようとすることが目的でした。

ところが、東京都内で実施されている保育士借り上げ社宅制度は『東京都内に住んでいる保育士にも適用可能』となっており、結果としてこの社宅制度を使わないと東京都内の他の自治体に保育士が奪われてしまうから、うちも同じように都内在住者でも使えるように制度を整えなければという流れになってしまったのです。

つまり、東京都内で保育士を確保しあうだけならば、本来の目的とは違うのではないかという点が問題視されていたのです。

借り上げ社宅制度の導入前後

 

新型コロナウィルスの流行により潤沢だった東京都の予算が枯渇してしまう

借り上げ社宅制度の終了が噂された20年度は、新型コロナウィルス流行により、国と東京都は経済対策などを中心に財源を大幅に使ってしまいました。

特に、東京都は休業補償などを積極的に実施しましたので、全国で最も高い支出になりました。

東京都の貯金(財政調整基金)

 

実際に東京都の保育士借り上げ社宅制度はどれくらいの予算を使っているのか

保育士借り上げ社宅の負担割合

上図は、東京都足立区の保育士借り上げ社宅に関する利用データです。足立区では2019年度に559名が借り上げ社宅を利用しました(残念ながら転居前の住所はどこの自治体もデータを取っていません。)

この足立区の数字をベースに東京都全体で大まかな数字を出してみます。

【試算】足立区のデータから、東京都の社宅制度の補助金額をシュミレーション

仮に、東京23区すべてが、足立区と同じように、559名の方が借り上げ社宅制度を利用したとして、東京23区の補助金額をシュミレーションしてみます。

まず、借り上げ社宅制度において発生する全ての費用額は、以下の計算1の通り、約10億円となります。

【計算1:東京都全体での保育士借り上げ社宅の総費用】
82,000円×559名×23区=10億5427万4000円

次に、東京都が負担している1/4を計算すると、計算2の通り、約2.6億円です。

【計算2:東京都が保育士借り上げ社宅の為に負担する補助金額】
10億5427万4000円×1/4=2億6356万8500円

この数字は自治体によって利用人数も上限金額も異なりますので概算です。結果として東京都は約2億6000万円を保育士借り上げ社宅制度に予算を使っていることになります。

東京都全体の予算で考えれば、割合的にはそれほど大きくありません。

しかし、もし終了になった場合には国の予算も終了になります。その為、各自治体で継続して実施する場合には、東京都だけでなく国の予算分も負担することになるので、各自治体は慎重な対応を迫られています。

 

東京都23区内における借り上げ社宅制度の対応

実はいくつかのメディアでも発信しており実際に毎月20名近くの保育士さんからDMなどで直接相談が来ているのですが、借り上げ社宅制度の継続or終了については東京23区の各自治体によって対応は様々です。

城東地域 (江東区、葛飾区、江戸川区、墨田区、台東区)

この地域では基本的に未定の区が多いです。JR以外の路線地域も多く、家賃相場的には比較的抑えられる物件が多いです。社会福祉法人運営の園庭がある保育園も多いです。

自治体名家賃補助上限額住居地域同棲・結婚後の利用都が終了した場合備考
江東区
(豊洲・亀戸)
82,000円原則区内NG回答なし
葛飾区
(亀有・新小岩)
82,000円区外OKOK回答なし
江戸川区
(葛西・船堀)
82,000円区外OKOK都に合わせる予定江戸川区独自の保育士手当あり
墨田区
(スカイツリー)
82,000円区外NG△ 
世帯収入要件あり
回答なし
台東区
(上野・浅草)
82,000円一部区外OKOK回答なし
上記は、2024年度の最新情報です。
「都が終了した場合」の欄のみ2020年1月時点の調査結果です。

城西地域 (杉並区、新宿区、世田谷区、練馬区、中野区、渋谷区)

基本的に新宿駅より西側に移動する地域なのですが「渋谷と一部世田谷」が一緒なのが少々ややこしいです。JR中央線沿線は交通の便もよく20代には人気の地域。

自治体名家賃補助上限額住居地域同棲・結婚後の利用都が終了した場合備考
杉並区
(荻窪・高円寺)
82,000円区外OK家族以外の同居は
補助50%
都に合わせる予定
新宿区
(新宿・新大久保)
82,000円区外OKOK回答なし
世田谷区
(成城・二子玉川)
82,000円区外OKOK都に合わせる予定
練馬区
(秋葉原・東京)
82,000円区外OKOK回答なし
中野区
(中野・鷲ノ宮)
82,000円区外OK家族のみ同居OK回答なし
渋谷区
(渋谷・恵比寿)
100,000円区内のみOK回答なし15万円の引っ越し費用補助
上記は、2024年度の最新情報です。
「都が終了した場合」の欄のみ2020年1月時点の調査結果です。

城北地域(豊島区、足立区、北区、荒川区、文京区)

文京区は世帯所得が高い傾向があり、保護者層が他の4区と比べると少々違う雰囲気。(国立の小学校が最も多い地域)北区、足立区、荒川区は『子育てしやすい街』をスローガンに掲げており、実際に多くのサイトで子育てランキング上位に入っています。保育中に戸外保育で使える大型公園がある地域が多いです。

自治体名家賃補助上限額住居地域同棲・結婚後の利用都が終了した場合備考
豊島区
(池袋・駒込)
82,000円隣接区OKOK回答なし
足立区
(北千住・西新井)
82,000円区外
保育園10kmまで
△ 
世帯収入要件あり
回答なし奨学金返済補助制度あり
北区
(赤羽・田端)
82,000円区外OKOK回答なし
荒川区
(日暮里・南千住)
82,000円区内のみOK回答なし
文京区
(飯田橋・千駄木)
82,000円区外OKOK回答なし
上記は、2024年度の最新情報です。
「都が終了した場合」の欄のみ2020年1月時点の調査結果です。

城南地域(目黒区、品川区、大田区)

東急線と京急線がメインとなる地域です。株式会社系の保育園は移動のしやすさもあり、同一法人がこの地域内で複数展開している傾向が東京都内で最も強いです。注目は大田区。大田区は世田谷区同様にいち早く保育士借り上げ社宅制度を導入した区であり、他の自治体に先駆けて大田区主導で保育士を採用する為に、ネット広告費の予算も組み込んで大田区独自の大規模就職セミナーを開催した実績もあります。そんな大田区は「いきなり社宅制度が終了したら保育士さんたちが困ってしまう」という理由から独自に社宅制度の継続を検討していると明言しています。

自治体名家賃補助上限額住居地域同棲・結婚後の利用都が終了した場合備考
目黒区
(中目黒・自由が丘)
区内:92,000円
区外:82,000円
区外OKOK回答なし
品川区
(五反田・大井町)
82,000円原則区内OK回答なし
大田区
(蒲田・馬込)
82,000円区外OKOK区独自の制度継続を検討
上記は、2024年度の最新情報です。
「都が終了した場合」の欄のみ2020年1月時点の調査結果です。

都心3区 (中央区、港区、千代田区)

山手線内に位置する地域が多く、高所得層が集まる街です。また中央区、港区や千代田区は大手企業の本社も多い為、法人税が多く入る為、潤沢な予算が組めるのでいずれの区も社宅制度が終了しても、独自予算でなにかしらの支援を検討しています。土地の値段も高い為、傾向として社会福祉法人よりも株式会社系の保育園が圧倒的に多い地域でもあります。

自治体名家賃補助上限額住居地域同棲・結婚後の利用都が終了した場合備考
中央区
(銀座・日本橋)
82,000円区外OKOK区独自の制度継続を検討
港区
(新橋・台場)
区内:112,000円
区外:82,000円
区外OKOK区独自の制度継続を検討
千代田区
(秋葉原・東京)
区内:130,000円
区外:82,000円
区外OKOK区独自の制度継続を検討
上記は、2024年度の最新情報です。
「都が終了した場合」の欄のみ2020年1月時点の調査結果です。

 

東京都内の借り上げ社宅一覧表についての補足

出来れば各自治体別に、保育園の設置法人や保護者層など、保育士目線に沿った解説をしたいところですが、今回は借り上げ社宅制度に絞って短めに解説しました。

(各自治体による保育園の傾向等については個別にご質問ください。)

その中で今回「東京都が借り上げ社宅終了した場合」という項目がありますが、多くの自治体で「空欄」になっています。実はこの16区のうち2つの自治体が「終了」と明言しています。

しかしその自治体名をここで書いてしまうと、その自治体への問い合わせが多くなったり、そこで運営する保育園に迷惑がかかってしまう可能性があるので、空欄にしています。

その他に問い合わせで最近多いのは「結婚ならびに同棲を考えた保育士借り上げ社宅の利用」です。これは図表の以下の総括②の通りです。ですが自治体の許可よりも法人規程で結婚、同棲による社宅利用を認めていない保育園も多いです。

東京23区の借り上げ社宅制度の総括

 

保育士借り上げ社宅制度の功罪と新たな問題点

では、実際にこの保育士借り上げ社宅制度は、東京や神奈川など都市部の保育士不足解消に役立ったのか。

答えは“YES”です。

実際に上京して働いている保育士に話を聞いてみると「借り上げ社宅がなかったら上京していない」という回答が多く寄せられます。他にもこの社宅制度実施により、今まで住宅手当などを設けていなかった法人も社宅制度や住宅手当を導入した所も多くあります。

しかし上京目的以外に使う事に対しての疑問。社宅利用者と利用したくても利用できない保育士との間による収入格差(既に結婚している保育士など)が生まれることなどを理由に社宅制度を導入しない。

またはこの社宅制度よりも恒久的な財源を求めるべきだという経営者も多くいるのも事実です。ただこの社宅制度で上京して働く保育士が増えたのは間違いありません。

 

本当に多い保育士からの質問や相談

数のメディアやSNSで保育士の社宅制度について発信して以降、本当に多くの質問が寄せられています。その中で多いのは・・・

1位:自分が働いている地域は現時点で社宅制度はどう考えているのか。

2位:社宅制度が終了したら、今住んでいる社宅はどうなるの。法人はどう考えているの。

3位:4月から社宅を利用して上京、転職を考えているがどうしたらよいのでしょうか。

実際に多くの法人では、借り上げ社宅終了の場合の対応を既に考えています。実際に社会福祉法人の理事長たちの集まりでもこの話題が議論になっていました。株式会社でも大手ではコンビウィズ、ネス・コーポレーションなどは既存の職員だけでなく昨年から採用面接時に社宅終了した場合には、どうなるのかを明確に説明しています。一方、未定である為、法人としてもまだ社宅を利用している保育士に伝えていない法人も同様にあります。

借り上げ社宅制度はあくまでも「保育士不足解消による時限的措置」ですので決していつまでも続く制度ではありません。その辺りも含めて社宅の利用や給料の使い道などを考えていただきたいと思いますし、私自身はDMでも構いませんので質問があれば引き続き個別にお応えしていきたいと考えております。

(本職は現場の保育士なので、返信に1~2日程度かかることがありますのでご了承ください。)

保育士借り上げ社宅制度のコラム執筆者

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最後までお読み頂き、ありがとうございます。

このゆび保育では、保育士に特化した転職サポートを行っています。
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取材協力:こばやしだいすけ さん
保育記事作成:このゆび保育 編集委員